「人生100年時代」と言われるように、日本人の長寿化が進んでいます。しかし一方で、老後の生活資金もたくさん必要です。そのため、退職後、老後に、したいことがあってもお金の問題であきらめざるを得ないこともあるかもしれません。そんな場合に活用できるのが、自宅を担保にしてお金を借りられる「リバースモーゲージ」です。
ただ、マンションに住んでいる場合は、リバースモーゲージを利用できないことも少なくありません。そこで今回は、リバースモーゲージの仕組みやメリット・デメリット、マンションでも利用できる条件などを徹底的に解説します。
リバースモーゲージとは
リバースモーゲージは、持ち家を担保にして、銀行などからお金を借りる融資制度のことです。その最大の特徴は、自宅を売却するのではなく担保にするだけなので、そのまま住み続けられる点にあります。返済は、契約者が亡くなった後に、自宅を売却するなどして行います。
住宅ローンが「お金を借りて、家を買う」という流れになるのに対し、リバースモーゲージは「家を持っている状態でお金を借り、死亡後に家を売却するなどして返済する」という流れです。このように、一般的なローンとは逆の順番になっているため、「リバース(逆)」モーゲージと呼ばれるのです。
リバースモーゲージは、基本的に返済が契約者の死亡後になるため、老後生活資金の確保などに活用することができます。
リバースモーゲージには2種類ある
リバースモーゲージと言えば、民間の金融機関で借りるものというイメージがありますが、公的機関が福祉制度として行っているものもあります。それぞれの特徴は、次のようになっています。
公的機関のリバースモーゲージ
公的機関が提供しているリバースモーゲージは「不動産担保型生活資金」という名称で、低所得者向けの福祉制度として行われているものです。「持ち家と土地があっても現金収入が少ない高齢者」を対象としており、住民税非課税世帯などの条件を満たしているなどの利用条件があります。
あくまで「生活支援」を目的とした制度のため、旅行や孫へのプレゼントなどのために利用することはできません。
民間金融機関のリバースモーゲージ
民間金融機関が提供しているリバースモーゲージは、年金収入などの長期安定した収入があるかどうかなどの基準で審査が行われます。
借入金の使い道は、不動産担保型生活資金よりも自由です。旅行や老人ホームの入居一時金などの目的で利用することも可能です。ただ、あくまで生活のための目的に限られるため、事業や投資を行うための資金として利用することはできません。
リバースモーゲージのメリット
リバースモーゲージを利用するメリットには、次の4点が挙げられます。
自宅に住み続けられる
リバースモーゲージの最大のメリットは、自宅に住み続けられることです。基本的に、契約者の死亡後に家を売却して返済する仕組みとなっているため、長く住み慣れた場所に住み続けながらローンを利用することができます。
高齢でもお金を借りられる
一般的なローンは、給与などの安定収入がないと審査に通過できないため、年金収入しかない高齢者は利用しにくいものです。しかし、リバースモーゲージは、持ち家を担保にするため、高齢者でもお金を借りやすい仕組みになっています。
銀行のリバースモーゲージの場合は、資金使途が広い
公的機関の不動産担保型生活資金は、生活資金といっても用途が限られています。銀行のリバースモーゲージであれば、生活資金であれば自由に使うことができます。老人ホームの入居一時金はもちろん、老後生活を充実させるための資金として活用することが可能です。
遺族に借金を残さなくて済む
リバースモーゲージは、契約者の死亡後に家を売却して返済する仕組みです。売却金額の範囲内で利用していた場合は、遺族が借金の返済に追われることはありません。
リバースモーゲージのデメリットや注意点
一方、デメリットや注意点として、次の5つのポイントを理解しておきましょう。
住宅ローンの返済が終わっていないと契約できない
リバースモーゲージは、住宅ローンの返済中の物件で利用することはできません。ほかの金融機関の担保になっている物件では、売却したお金を受け取る順位が低くなってしまうため、担保価値が低いと判断されてしまうためです。
35歳のときに35年ローンで購入した場合、繰り上げ返済をしていないのであれば、70歳までは住宅ローンを借りている金融機関の担保になっているということになります。
長生きリスクがある
リバースモーゲージは、担保として差し入れる家の評価額によって借入限度額が決まります。そのため、計画的に毎月の借入額を決めていたつもりでも、想定よりも長生きした場合には借入限度額に達してしまい、借入ができなくなってしまうこともあります。そうなると、その後の生活費の確保は非常に難しくなるでしょう。
また、「契約期間」が定められている契約になっている場合、契約者が生きている間に契約期間が終了し、ローンを一括返済しなければならない可能性もあります。
借入金額を決めるときは、かなり長生きしたり、医療費等がかさんでしまったりした場合まで想定したマネープランを立てておくことが重要です。
家の評価額や金利が変動する
担保にする家の評価額は大きく変動することがあり、それに合わせて、借入限度額が引き下げられることもあります。また、リバースモーゲージは変動金利のものが多く、将来、金利が上昇すれば、利息の返済額や借入限度額に影響します。
利用できる物件が限られている
リバースモーゲージは、どんな物件でも利用できるわけではありません。その特性上、契約者の死亡後に物件を確実に売却できる見込みがないといけないため、主要都市にある物件に限定されています。
詳しい対象地域は、金融機関によっても異なるため、各銀行のホームページ等で確認してください。
同居人がいると契約できないこともある
リバースモーゲージは、契約者の配偶者以外の同居人がいると、契約できないことがあります。その理由は、契約者の死亡後に物件をスムーズに売却できなくなってしまうリスクがあるためです。
契約者の死亡後に配偶者が家を失うケースも
契約者が配偶者よりも先に死亡した場合、配偶者が借り換えを行い、リバースモーゲージを利用し続けられるようにしている金融機関がほとんどです。しかし、そのためには改めて審査が必要で、契約できない可能性もあります。その場合は、配偶者が住む家を探さなければなりません。
マンションを担保にするリバースモーゲージは難しい
こういったメリット・デメリット・注意点があるリバースモーゲージですが、持ち家がマンションの場合は利用対象外になっていることが多いと言えます。
リバースモーゲージは、金融機関が家を換金することで貸したお金を回収する仕組みですから、「契約から数十年後に売却しても価値があること」が大切なのです。
不動産には土地と建物があり、土地は価格が上下することはありますが、時間とともに劣化するものではありません。しかし、建物は古くなっていくため、最終的にはほとんど価値がなくなってしまうものです。
マンションでも、専有部分の部屋(建物)と敷地の一部(土地)をセットで購入するのが一般的ですが、戸建て住宅と比べると、土地がとても小さくなってしまいます。また、土地だけを売却することができないため、築年数が古いマンションを売却するのは簡単ではありません。
こういった理由で、マンションは担保価値が低くなってしまい、リバースモーゲージの利用対象外とされていることが多いのです。
リバースモーゲージが使えるマンションもある
ただ、すべてのマンションがリバースモーゲージの対象外となるわけではなく、「契約から数十年後にも十分な資産価値があり売却しやすい」と判断される物件であれば、リバースモーゲージを利用することもできます。
具体的には、次のようなマンションです。
■エリア
- 人気のあるエリア(高級住宅地など)
- 近隣の施設が充実している
- 治安が良い
- 災害に強い
■物件
- 契約時の築年数15年以内(ただし、契約者の年齢にもよる)
- 駅から徒歩10分以内
一言で表現するなら、「人気のある物件」です。人気があるタイプの物件であれば、売却しやすく担保価値が高いと判断されるため、マンションでもリバースモーゲージを利用することができます。
リバースモーゲージが使えない場合の対処法
持ち家がマンションでリバースモーゲージが利用できないような場合や、リバースモーゲージのデメリットが気になるので利用したくないという場合はどうすればいいのでしょうか。
売却・賃貸に出すなどして引っ越す
売却してまとまったお金を受け取る、賃貸に出すことで家賃収入を得るという方法があります。ただ、いずれも、次の住まいを確保しなければなりません。
売却するとしても希望価格で売却できるとは限らない、賃貸に出しても空室期間は収入がなくなるといったデメリットがあります。
ハウスリースバック
ハウスリースバックも持ち家を売却することに違いはありませんが、売却先から賃貸して、そのまま住み続けるという仕組みになっています。将来的に、買い戻すこともできます。マンションも対象になっているため、リバースモーゲージの対象外だったとしても、利用できる可能性が広がります。
ただ、持ち家から賃貸に変わるため、契約更新の際に賃料アップを求められる可能性もあります。場合によっては、立ち退きを求められることもあるでしょう。
おわりに:リバースモーゲージなら高齢者でも利用しやすい
老後の生活資金を確保する方法としてリバースモーゲージを利用することができます。持ち家を担保にして借入する高齢者でも利用しやすい方法なので、より充実した老後を送るための資金を得られる方法です。
ただ、マンションでは利用できないことが多く、デメリットが気になる人もいるでしょう。その場合は、売却も視野に入れて、老後資金を確保する方法を考えましょう。
ファイナンシャルプランナー横山さんコメント
老後資金を確保する方法として、リバースモーゲージやハウスリースバックなどの方法が注目されています。しかし、高齢になってからの借り入れは、長生きリスクや金利変動など、想定外のことが起きた場合のダメージも大きくなります。利用する場合は、よほどのことがあっても生活に支障が出ないよう、堅実なマネープランを立てるようにしましょう。
この記事を執筆した人
1級ファイナンシャルプランニング技能士、日本証券アナリスト協会認定アナリスト、MBA(経営学修士)
横山 研太郎
ねこのて合同会社 代表。大手メーカーで経理、中小企業の役員として勤務したのち、ファイナンシャルプランナーとして独立。金融機関での経歴がないからこそ、お客様にとってのメリットを最大化するプランを提案することができることを強みとする。保険だけ、投資だけに片寄ることなく、今の生活も将来の生活も可能性に満ちたものにするようアドバイスすることを心がける。