かつて、住宅ローンを利用する際には「頭金が2~3割必要」と言われていました。
しかし、現在は国の主導による低金利政策によって金融機関の融資需要が高まっていることから、物件代金すべてを住宅ローンでまかなう、いわゆる「フルローン」の利用が可能となっています。
頭金無しでも住宅ローンを組めるということは、貯金が無い方でも住宅を購入できるチャンスがあり、また売主側も購入者層がぐっと広がるため、需要・供給ともに嬉しい市場環境であると言えます。
しかし、フルローンはメリットばかりではありません。むしろ、利用するに妥当な理由がなければ大きなリスクを抱えるケースもあるので、しっかり事前確認しておきましょう。
フルローンとは?
フルローンとは「物件代金すべてを住宅ローンでまかなうこと」を言います。
かつて、住宅を購入する際は物件価格の2〜3割程度を頭金として用意することが一般的でした。頭金が用意できなければ、金融機関から与信が低いと判断されしまい、そもそも住宅ローンを組めない時期があったのです。
しかし、現在は金融機関による融資需要が高いため、頭金が必須ではなくなり、さらに諸費用も含めた「オーバーローン」という借り方まで登場しています。
▼オーバーローンの詳しい解説はこちら
不動産購入時の「オーバーローン」とは?仕組みや注意点を解説
こうした状況を受けて、最近では「頭金不要」と大きな文字が記載された不動産広告をよく目にするようになりました。
現在の住宅市場では、フルローンが住宅購入における一般的な方法として浸透しているのです。
フルローンとは、
- フルローンは「物件代金すべてを住宅ローンでまかなう」こと
- フルローンのメリットは「今すぐ購入できること」
- フルローンの最大のデメリットは「残債割れ」のリスク
- フルローンは安易に組まない方が良い
いざ物件を探し始めると、買いたい気持ちが先行してしまい適切な判断ができなくなることがあります。特に資金計画を慎重に行わないと、購入後に思わぬトラブルとなる可能性があるのです。
フルローンで不動産を購入するメリット
フルローンで購入するメリットとしては、主に以下3つがあげられます。
- 物件を今すぐ購入できる
- 手元に現金を残せる
- 住宅ローン減税のメリットを最大化できる
物件を今すぐ購入できる
住宅購入における理想的なタイミングは、皆一定に訪れるのではありません。ライフステージや家族構成の変化、心理的変化など、住宅を購入したいと思うタイミングは人によりさまざまです。
住宅を購入することが一概に良いこととは言えませんが、実際に理想的な物件に出会ったにもかかわらず、手元の現金不足を理由に買い逃してしまうことは非常に残念なことです。
不動産は一つとして同じ商品が無いのと同時に、理想的な住まいも頻繁に見つかるとは限りません。また、買いたい時に買いたい物件を購入することは、理想的な暮らしを実現するための近道とも言えます。
したがって、頭金の予定額まで貯金が無いからといって物件を買い逃してしまうより、しっかりとした資金計画を前提にフルローンを組むことの方が状況によってはメリットとなるのです。
手元に現金を残せる
「現金を手元に残せること」もフルローンのメリットの一つと言えます。
生活を送るうえで現金は欠かせません。住宅購入後も医療費や教育費など、急な出費がいつ発生するかわかりません。突発的な出費に対応するためには、ある程度の現金を手元に残しておくことが重要です。
消費者金融などの一時的な借入は、住宅ローンと比較すると金利が高いことが通常です。急な出費に対して借り入れをすれば、結果的に損をしてしまう可能性があります。
そのため、住宅ローンを組む際は現時点の経済状況のみならず、将来的な支出と収入の状況を想定しながら借入金額を設定するとともに、手元の現金をどの程度残せば安心して生活を送れるか、シミュレーションしながら頭金の金額を設定しましょう。
住宅ローン減税のメリットを最大化できる
住宅ローン減税とは、一定期間、年末のローン残高に対して1%の所得税を控除する制度です。
このローン残高の上限額は、現時点では4,000万円と設定されています。4,000万円の物件を購入した場合、物件代金全額を住宅ローンで借り入れすれば一年目は約40万円の所得税控除、仮に500万円の頭金を入れるとローン残高は3,500万円となり控除額は約35万円です。
住宅ローン減税について、低金利が続く現在は「逆ざや」の状態になっています。
所得税の控除が1%であるのに対して、住宅ローンは変動金利であれば0.5%などが当たり前になっています。
つまり、頭金を入れて借入金額を抑えるよりも、上限金額の4,000万円までに関しては住宅ローンを借りた方が手元に残るお金が多くなるのです。
フルローンで不動産を購入するデメリット
ここまでメリットをお伝えしてきました。しかし、安易にフルローンを組むことは賢明ではありません。ここからは2つのデメリットをご紹介します。
- 借入審査が厳しくなる
- 残債割れのリスクがある
借入審査が厳しくなる
フルローンは誰でも利用できるわけではありません。
融資をする金融機関からすれば、融資金額が多ければその分融資に慎重になります。そして、借入者が購入後も滞りなく返済を継続できるかの判断については「頭金をどの程度準備できるか」ということも要件となる場合があるのです。
残債割れのリスクがある
最も注意すべきことは「残債割れ」です。
将来売却することとなった場合、住宅ローンが残った状態では買主へ所有権を移転することができません。
したがって、売却金額で残債をすべて返済するか、売却金額では返済しきれない場合は、手元の現金もしくは他の融資で補填しなければならないのです。
特に新築物件の場合は、入居後すぐに市場価格が2割程度下落することも珍しくありません。
現時点で売却する予定がないとしても、ある程度売却時の収支を想定しながら借り入れ金額を設定することが必要と言えます。
フルローン利用時の注意点
フルローンを利用する際は、何よりも「購入後の資金計画」をしっかり行なったうえで利用の可否を判断することが重要です。
現在は金融機関の融資需要が高いため、比較的にフルローンが組みやすい状況です。
しかし、理論上では支払い能力があったとしても、実際に支払っていけるかは別問題です。現時点では返済できたとしても、将来的に子供の教育費などが必要となれば、家計の収支が合わなくなる可能性もあります。
したがって、住宅ローンを組む場合は将来的な家計の収支バランスがしっかり成り立つことを大前提とし、そのうえで、経済的な妥当性があると判断したとき始めて「フルローン」という選択肢があることを忘れてはいけません。
おわりに:フルローンの利用時は将来設計が重要
かつては「頭金が2〜3割必要」と言われた住宅ローンも、現在では物件代金すべてを住宅ローンでまかなう「フルローン」の利用が可能となっています。
フルローンは「買い逃しの防止」や「住宅ローン減税の最大化」といったメリットがある一方で、「融資審査が厳しくなる」ことや将来の「残債割れ」のリスクなどデメリットも存在します。
そのため、フルローンを検討する際は、単に「購入したい」と言う気持ちだけでなく、きちんと経済的妥当性についても考慮したうえで利用の可否を判断することが重要なのです。
この記事を監修した人
スターフォレスト代表取締役
増田浩次(ますだこうじ)
埼玉県出身。親族の大半が不動産業界を営んでいたことから、自身も不動産業界へ入って30年近くが経ちます。モットーは、お客さまに喜んでいただけるような的確な提案をすること。お客さまには物件の良いところも悪いところもすべてお話しています。
宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー、損保募集人資格を所持しておりますので、住宅ローンや資金計画のご相談・アドバイスもお任せください。