不動産は非常に高額な商品であるため、万が一取引に事故があった場合、その損害は数十万円から数百万円、大きいものであればそれを優に超えて数億円単位の金額になることがあります。
また、不動産は大きい金額が動くだけではなく、民法や宅地建物取引業法など、広範囲な法令に従って手続きを行う必要があります。
そして取引に介在する仲介会社は、買主が取得した後も用途制限や建築制限などをしっかり遵守して使用・運用できるように、物件に関する重要な事項を説明および交付することが義務付けられています。
これがいわゆる「重要事項説明」です。
しかし、仲介会社もその担当者も必ずしも完璧であるわけではありません。時に誤った説明をしてしまい取引事故が生じる可能性もゼロではないのです。
この取引事故による損害補償のために用意された保険が、今回のテーマである「宅地建物取引士賠償責任保険」です。
本記事の主な内容は以下のとおりです。
- 「宅地建物取引士賠償責任保険」は仲介会社が加入する保険
- 重要事項説明と37条書面交付を起因する損害に対する保険
- 1事故で最高1億円まで補償される
- すべての仲介会社が加入しているわけではない
- 仲介会社を選ぶ際の判断材料にもなる
宅地建物取引主任士は国家資格であるものの、その資格を持つ担当者の質や仲介会社のチェック機能は皆一律というわけではありません。
ご自身の取引における万が一のことに備え、宅地建物取引士賠償責任保険の仕組みや補償内容をしっかり理解しておきましょう。
宅地建物取引士賠償責任保険とは?
宅地建物取引士賠償責任保険とは、不動産業者が加入する業界団体の会員向けに用意された保険であり、略称して「宅建賠」とも呼ばれます。
この保険は、不動産会社(仲介会社)を加入者、宅地建物取引士を被保険者として、取引事故により損害賠償を請求された場合、1つの請求につき最大で1億円が補償されるというものです。
不動産取引について規定した宅地建物取引業法では、不動産取引そのものの難易度の高さから、仲介会社よりも契約当事者となる一般消費者の保護意識が強い性質があります。
そのため、取引事故があった場合、仲介会社の責任が明らかに払しょくされない限りは、常に仲介会社に対して損害賠償が命ぜられる可能性が高い状況にあるのです。
不動産取引における損害賠償は、大きければ数千から数億円に及ぶ可能性があります。その損害賠償請求の相手方は個人である宅地建物取引士であり、ほとんどの場合で支払い能力を超えてしまう可能性があるため、使用者責任として雇用主である仲介会社が保険に加入します。
ただし、すべての損害において保険が適用されるわけではありません。宅地建物取引士が業務において必要不可欠である調査や確認を怠っていたと判明した場合、あるいは犯罪行為や法令違反があった場合には保険が適用されません。
宅地建物取引士賠償責任保険で補償される内容
宅地建物取引士賠償責任保険は下記2つの業務に起因した損害賠償について補償されます。
- 重要事項説明および書面の交付
- 宅地建物取引業法第37条書面の交付
重要事項説明および書面の交付
不動産取引では、物件の契約締結までに宅地建物取引士によって物件の権利関係や法令関係、インフラの整備状況など、物件に関する重要な事項を契約当事者である売主および買主へ説明すること、およびその内容が記載された重要事項説明書を交付することが義務付けられています。
これはいわゆる「重要事項説明書」と呼ばれるものであり、無過失の説明あるいは記載ミスによって損害が生じた場合には、宅建賠が適用されます。
▼重要事項説明書については、こちらの記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
不動産売買締結前の「重要事項説明」と「重要事項説明書」とは?
宅地建物取引業法第37条書面の交付
宅地建物取引業法第37条書面とは、宅地建物取引業法第37条の規定に基づき宅地建物取引士の記名押印をもって交付する書面のことを言います。
この書面には、契約当事者の氏名や物件の所在地など絶対に記載が必要な「必要的記載事項」と契約解除や損害賠償、違約金といった取り決め内容を記載する「任意的記載事項」があります。
不動産売買契約はあくまで売主と買主の当事者間での私的行為であり、一方の37条書面の交付は宅地建物取引業法に規定された宅地建物取引士の義務であるため、本来は別物です。しかしながら、実務では37条書面と売買契約書を兼ねることが通例となっています。
日本の法律では、たとえ口約束であったとしても契約行為として成立します。
しかし、それならば法律によって交付義務のある37条書面に記載しておけば良いという考え方に基づいて、「この契約書は宅地建物取引業法第37条に定められている書面を兼ねる」という記載をすることにより、売買契約書と37条書面を一つの書面にまとめているのです。
そして宅建賠では、37条書面の誤った内容よる損害賠償についても、その補償範囲としているのです。
宅地建物取引士賠償責任保険の注意点
宅地建物取引士賠償責任保険は「すべての仲介会社が加入しているわけではない」ということには注意が必要です。
宅建賠はあくまで任意保険であり、自動車の自賠責保険のように加入が義務付けられているわけではありません。そのため、万が一損害賠償を請求する立場になった場合でも、請求の相手方である仲介会社が保険に未加入であり、請求時点で支払い能力を欠いているという可能性もゼロではありません。
また補償の限度額は最高で1億円ですが、保険内容によっては補償範囲がそれを下回る可能性もあります。
たとえば東京都の宅建賠の場合、保険料に対する補償内容は下記のとおりです。
- 保険料が宅建士1名あたり7,000円:支払限度額は1事故につき1億円
- 保険料が宅建士1名あたり5,000円:支払限度額は1事故につき5,000万円
このように、保険料を低く抑えれば補償範囲は小さくなります。
宅建賠に加入するか否か、またどの程度保険料を支払っているかは、仲介会社それぞれの業務に対する姿勢が表れるポイントです。
宅建賠は一般には周知されておらず、被保険者である宅建士自身も知らないことすらありえます。
そのため、仲介会社を選ぶ際には、会社の業務に対する姿勢を測る意味でも、この宅建賠の加入有無を判断材料とすることは一つの方法とも言えます。
おわりに:宅地建物取引士賠償責任保険は仲介会社選びの一つの判断材料でもある
不動産における取引事故では、その損害が数十万円から数百万円、大きいものであれば数億円単位の金額となる可能性があります。
宅地建物取引業法では、仲介会社よりも一般消費者の保護意識が強い性質があるため、取引事故があった場合、仲介会社の責任が明らかに払しょくされない限りは、常に仲介会社に対して損害賠償を命ぜられる可能性が高い状況にあります。
このような状況から、取引事故による損害補償のために用意された保険が「宅地建物取引士賠償責任保険」です。
宅地建物取引士賠償責任保険は「宅建賠」と略称でも呼ばれ、宅地建物取引士が行う「重要事項説明書の説明および交付」と「宅地建物取引業法第37条書面の交付」に起因する損害賠償について、最高で1億円まで補償する保険です。
なお、この保険は任意保険であるため、すべての仲介会社が加入しているわけではありません。
そのため、仲介会社を選ぶ際には、この宅建賠への加入有無を判断材料とすることも一つの方法と言えます。
▼不動産会社選びの参考にこちらの記事もご覧ください。
仲介手数料無料は危険?中古マンション購入の際に誠実な不動産会社を見極める5つのポイント
この記事を監修した人
スターフォレスト代表取締役
増田浩次(ますだこうじ)
埼玉県出身。親族の大半が不動産業界を営んでいたことから、自身も不動産業界へ入って30年近くが経ちます。モットーは、お客さまに喜んでいただけるような的確な提案をすること。お客さまには物件の良いところも悪いところもすべてお話しています。
宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー、損保募集人資格を所持しておりますので、住宅ローンや資金計画のご相談・アドバイスもお任せください。