クーリングオフは、契約締結後でも契約を考え直すことができる、買主を保護するための制度です。不動産売買でも、条件を満たした場合にはクーリングオフが適用される場合もあります。ただ、クーリングオフには細かい条件があり、売主であっても注意しておきたいポイントがあります。
本稿では、クーリングオフの制度について解説し、買主・売主それぞれ注意点についてもお話しします。
クーリングオフとは?
クーリングオフとは、特定の商取引において認められている買主側の権利で、いったん契約の申し込みや締結をしたとしても、契約を考え直すことができるようにしているもので、一定期間の間、無条件で契約の申し込みを撤回したり、契約を解除したりすることができる制度です。
訪問販売の場合、売主側の事務所等以外の場所で契約の申し込みや契約締結をした場合、「クーリングオフについて書かれた書面を受け取った日から8日以内」であれば、書面で意思表示することで契約の申し込みを撤回、契約を解除することができます。
不動産売買でもクーリングオフが適用されるケースもある
不動産売買でも、一定の場合にはクーリングオフが適用されます。それについては、宅地建物取引業法の37条の2に定められています。
宅地建物取引業法 37条の2(抜粋)
宅地建物取引業者が自ら売主となる宅地又は建物の売買契約について、当該宅地建物取引業者の事務所その他(中略)の場所において、当該宅地又は建物の買受けの申込みをした者又は売買契約を締結した買主は、(中略)書面により、当該買受けの申込みの撤回又は当該売買契約の解除を行うことができる。
クーリングオフの制度は、買主にとっては、契約後に冷静に判断して契約を考え直すことができるという有利なものです。しかし、売主にとっては、契約後に買主から契約解除されるかもしれないリスクがあるものと見えることでしょう。
ただ、クーリングオフが適用されるためには、さまざまな条件があります。買主であっても売主であっても、その条件をしっかりと理解した上で不動産売買をするようにしましょう。
クーリングオフの条件
クーリングオフができる取引に該当するかの条件には、次のようなものがあります。
①売主が宅建業者(宅地建物取引業者)であること
クーリングオフができるのは、売主が宅建業者の場合のみです。売主が個人の場合はクーリングオフの対象になりません。
仲介会社経由で不動産を購入する場合は、その不動産業者(宅建業者)が売主になっていることもあれば、不動産業者が仲介をしているだけで売主はその不動産の持ち主である個人になっている場合もあります。どちらになっているかで、クーリングオフのできるできないが変わってしまいますので注意してください。
②買主が宅建業者でないこと
買主が宅建業者の場合はクーリングオフの対象になりません。不動産を売却するとき、取引相手が宅建業者であれば、クーリングオフの心配はないということになります。
③事務所等以外の場所で申し込みや契約をしていること
業者の事務所等を訪れて申し込みや契約をした場合には、クーリングオフができません。クーリングオフができるかどうか、主な場合は次のようになっています。
クーリングオフができる | ・自宅や勤務先
・カフェやレストランなど |
クーリングオフができない | ・宅建業者の事務所・営業所・店舗
・住宅展示場 ・買主都合で自宅や勤務先を指定した場合 |
自宅や勤務先の場合はクーリングオフの対象となっていますが、買主の都合で自宅や勤務先を契約の場所に指定した場合はクーリングオフの適用対象にならない点には注意してください。
④支払いと物件の引き渡しがまだ行われていない
物件代金の「支払い」と鍵を渡すなど物件の「引き渡し」が行われた後は、クーリングオフを行うことはできません。
なお、「代金を支払ったが、引き渡しはまだ」「引き渡しされたが、代金の支払いはまだ」という場合は、クーリングオフは可能です。
⑤クーリングオフの説明を聞いてから8日以内であること
クーリングオフができるのは、宅建業者からクーリングオフについて書面で説明されてから「8日以内」です。この期間内に、書面で申込み撤回や契約解除の意思表示をしなければなりません。
不動産売買のクーリングオフの方法
クーリングオフは、クーリングオフについての説明を受けて書面が交付された日から8日以内に書面で意思表示をしなければなりません。ただ、どのように「8日」がカウントされるのか、どのような書面で送るべきなのかを知っておきましょう。
まず「8日」という日数についてです。
「8日」というのは、「クーリングオフについての説明を受けた日を1日目としてカウントした8日目」です。簡単に言うと、クーリングオフの説明を受けた日の一週後ということになります。この8日目の時点で書面での意思表示が行われていなければなりませんが、「郵送等で発送した日が8日目」までであれば良いとなっています。
次に、書面で発送する方法です。
クーリングオフで申込みの撤回や契約解除をすることを記載した書面を郵送します。ただ、「クーリングオフについての説明を受けて書面が交付された日から8日以内で発送した」という証拠を残しておくのが大切です。そのため、「いつ、どのような内容の文書が発送されたのか」を証明することができる「内容証明郵便」で発送するのが望ましいでしょう。
不動産売買でクーリングオフをするときの注意点
ここまでクーリングオフの制度と方法について解説してきましたが、最後に、買主・売主それぞれについて、クーリングオフについての注意点をお伝えします。
【買主側の注意点】
①クーリングオフすることは、書面とは別で早めに連絡する
クーリングオフについての書面を発送する前に、クーリングオフをすることについて宅建業者に連絡しておきましょう。もちろん、書面を送付するだけでクーリングオフできるのですが、書面の到着が遅くなるとトラブルにもなりかねないですし、業者も新しい買い手を少しでも早く探し始められます。相手への配慮で、無用なトラブルを防ぐことにもつながるでしょう。
②クーリングオフができたことを書面で交付してもらう
双方の確認と証拠のために、宅建業者にクーリングオフを受け付けたことを書面にして交付してもらいましょう。事前連絡でクーリングオフを通知したときに、口頭で受け付けてくれる場合もあるかもしれません。その場合は、クーリングオフの意思表示をした証拠となる書面が残りません。必ず、クーリングオフを受け付けた旨の書面を発行してもらいましょう。発行できないと言われた場合は、①と同様に、クーリングオフすることを内容証明郵便で発送しておきましょう。
③クーリングオフの説明や書面がないと思いこまない
クーリングオフできるのは、「クーリングオフについての書面で説明されてから8日以内」となっています。逆に言えば、「書面が交付されていない場合」「説明されていない場合」は、何日後であってもクーリングオフが可能だと言えます。
しかし、宅建業者は、そのようなミスが起きないように細心の注意を払っています。通常は、契約書と一体になるようにクーリングオフについて記載し、その内容について説明を受けたことを証明するサインや押印を求められるなどしているはずです。説明を聞いていない、書面を受け取っていないと思い込んで、8日以降でもクーリングオフできると思い込まず、しっかりと受け取った書面等を確認しておきましょう。
【売主側の注意点】
売主が個人の場合、買主側がクーリングオフの権利を行使することはできません。しかし、買主側がクーリングオフの条件を誤解して、申込み撤回や契約解除を伝えてくることもないとは言えません。また、クーリングオフできないことをわかっているにも関わらず、不正に利用しようとする人もまれにいるようです。
「買主側の権利だから、クーリングオフについて売主側は知らなくてもいい」と考えてしまうのではなく、どういう場合に使えるものなのかしっかりと理解しておきましょう。
クーリングオフについて、買主も売主もしっかりと理解しておきましょう
クーリングオフは個人の買主の権利で、宅建業者の事務所以外の場所で契約の申し込みや契約締結を行った場合、書面で説明された日から8日以内で、支払いと引き渡しが完了していなければ、申し込みの撤回や契約の解除を行うことができます。クーリングオフをしなければならないときは、内容証明郵便で発送するなど、証拠を残すようにしておきましょう。
また、個人の売主側は、「自身が売主になる場合は、買主側はクーリングオフができない」ということをしっかり理解しておきましょう。
ファイナンシャルプランナー横山さんコメント
クーリングオフは、宅建業者と比べて専門知識が少ない個人の買主を保護するための制度です。契約場所や日数などの厳しい条件がありますので、しっかりと理解しておきましょう。
ただ、いざとなれば契約を撤回できるからと気軽に契約するのは絶対にやめましょう。不動産の購入はじっくり時間をかけて行うものですから、契約後のたった8日でしっかりと検討できるものではありません。あくまでも、クーリングオフを使わなくていいくらいに考えて契約し、想定外のことがわかったときくらいしか使うことはないという状態にしておくのが良いでしょう。
この記事を執筆した人
1級ファイナンシャルプランニング技能士、日本証券アナリスト協会認定アナリスト、MBA(経営学修士)
横山 研太郎
ねこのて合同会社 代表。大手メーカーで経理、中小企業の役員として勤務したのち、ファイナンシャルプランナーとして独立。金融機関での経歴がないからこそ、お客様にとってのメリットを最大化するプランを提案することができることを強みとする。保険だけ、投資だけに片寄ることなく、今の生活も将来の生活も可能性に満ちたものにするようアドバイスすることを心がける。