住宅ローンを利用してマイホームを購入する場合、必ず「金消契約」を締結することになります。聞き慣れない言葉ですが、正式名称は「金銭消費貸借契約」といい、お金を借りるための契約のことです。住宅ローンはマイホームを購入するためにお金を借りるものですから、金消契約の一種なのです。
本稿では、住宅ローンを利用するときに結ぶ金消契約と、同時に必要な契約や必要書類などについて解説します。
金消契約とは?
住宅ローンでの金消契約について、簡単にポイントをまとめると下記の通りです。
- 住宅ローンを利用するときに必ず締結される契約で、読み方は「きんしょうけいやく」
- 借入金額、金利、返済期間などの、住宅ローンの借入条件が明記されている
- 物件を決済する前に金融機関と契約締結が必要
- 金消契約と同時に「抵当権設定契約」と「保証委託契約」を締結する
- 金消契約締結時に必要な書類は、会社員か自営業者で異なる
- 金消契約を締結する時に必要な住民票は、新住所記載のものを提出するのがおすすめ
不動産仲介業者などを通じて住宅を購入する場合でも、金消契約の締結は、ご自身と金融機関で行います。仲介会社がサポートしてくれる場合もありますが、基本的に自分で行わなければならないものです。そのため、住宅ローン借り入れまでの手順や準備しておくべきものについて、しっかりと理解しておきましょう。
住宅ローンの利用に必要な契約は3種類
金消契約を締結することで、金融機関からお金を借りることができます。しかし、住宅ローンを利用するためには、金消契約以外に2種類、全部で3種類の契約を結ばなければなりません。
その3種類とは、「金銭消費貸借契約」「抵当権設定契約」「保証委託契約」です。それぞれどのようなものなのか見ていきましょう。
金銭消費貸借契約
金銭消費貸借契約(金消契約)とは、「借主が将来に同額(と利息)を返還することを約束して、貸主から金銭を受け取る契約」であり、金融機関などからお金を借りる契約のことです。
つまり、「住宅ローンでお金を借りる契約」です。金消契約の契約書には、借入金額、金利、返済期間など、住宅ローンの利用条件についての最終決定事項が記載されています。
しかし、住宅ローンは多額で返済期間も非常に長く、金融機関としては、より確実に貸したお金を返してもらえるようにしておきたいでしょう。そのため、抵当権や債務保証についての契約も必要になっているのです。
抵当権設定契約
抵当権とは、「万が一、貸し出したお金が弁済されない場合、担保とした物件を売却して、その代金から優先的に弁済を受けることができる権利」です。 金消契約と同時に抵当権設定契約を結んだうえで、抵当権を設定していることの事実関係を第三者に示すために、住宅ローンの利用者と金融機関が共同で抵当権設定登記を行います。
抵当権設定契約と登記をしておくことにより、ローン返済が滞った場合には、裁判所での所定の手続きを経たうえで、金融機関は担保として差し出されている不動産を競売にかけて、貸付金を回収することができるようになります。
保証委託契約
保証委託契約は、金消契約・抵当権設定契約とは異なり、住宅ローンの利用者と保証会社が締結する契約です。保証委託契約を締結している場合、住宅ローンの利用者が返済不能となった場合に、保証会社が住宅ローンの残債を金融機関に支払うという仕組みになっています。
一般的には、住宅ローンの利用にあたって、保証委託契約の締結が条件になっています。ネット銀行など一部の金融機関では、保証委託契約が必要ない場合もあります。しかし、その代わりに「ローン事務手数料」が高額になっていることがほとんどで、住宅ローン利用者の実質的な負担にはあまり差がありません。
なお、保証委託契約で注意しておかなければならないのは、住宅ローンの利用者に代わって保証会社が金融機関にお金を支払った場合のことです。この場合、保証会社が金融機関にお金を支払って「住宅ローン債権を譲り受けた(返済を受ける権利を譲り受けた)」かたちになっています。住宅ローン利用者の返済義務がなくなったのではなく、保証会社に返済をしなければならないことに変わりはないのです。
金消契約時(住宅ローン契約時)に必要な事項
金消契約を締結する前に、住宅ローンの審査を受けなければなりません。審査にあたっては、本人確認・収入確認のための書類や、購入物件についての書類をたくさん準備しなければなりません。スムーズにマイホームの購入を進めるためにも、必要なものを金融機関に確認した上で、できるだけ早い段階で準備しておきましょう。
必要な書類は、下記の通りです。なお、会社員か自営業者か、完成物件を購入するのか注文住宅を建築するのかなどによって、必要な書類が変わります。
■本人確認書類
- 住民票
- 印鑑証明書
- 身分証明書(運転免許証・保険証・パスポート等)
■収入確認のための書類
- 住民税決定通知書または住民税課税証明書
- 源泉徴収票(会社員等の場合)
- 確定申告書(自営業者等の場合)
- 納税証明書(自営業者等の場合)
- 会社の決算書(会社役員等の場合)
■購入物件に関する書類
- 売買契約書
- 重要事項説明書
- 新築時のパンフレット(完成物件の場合)
- 建築確認申請書・建築確認済証
- 建物配置図・各階平面図・建物立面図
- 建物検査済証(完成物件の場合)
- 工事請負契約書(注文住宅の場合)
■その他
- 契約書に貼付する収入印紙
※住宅ローンの借入金額によって印紙代が異なります。確認のうえ、契約締結時までに収入印紙を購入しておきましょう。
契約時に必要な住民票が取得するタイミングが重要
本人確認のために住民票が必要ですが、この住民票は、「転居後の住民票」を取得して提出するケースが多いようです。
住宅ローンの契約前で、まだ転居していないはずであり、この段階で転居後の住所に住民票を異動することは法律的にはグレーゾーンと言えます。しかし、下記の2つのメリットから、実務上はよく行われている方法です。
①不動産登記の住所を変更する手間が省ける
転居前の住民票で金消契約を結ぶと、物件の登記も「転居前の住所」で行うことになります。これ自体には特に問題はないのですが、将来、売却することになった場合には、最新の住所転居後の住所に不動産登記を変更しておかなければなりません。転居後の住所で登記しておくことで、住所変更登記の手間を省くことができます。
②金融機関が本人の居住を確認できる
金融機関は、住宅ローンでお金を貸し出す時に、本人がその物件に居住しているかを確認します。住宅ローンは、本人が居住するための物件購入という条件で、不動産投資などに利用される事業用ローンよりも低い金利が設定されています。
これを悪用しようとするケースを未然に防ぐため、金融機関は本人居住の確認をしているのです。転居後の住所で金消契約の締結と不動産登記をしておくことで、本人が居住していることを確認できるようになります。
金消契約(住宅ローン)の手順
金消契約を締結するまでの流れは、下記の4つのステップで進められます。
- 事前審査
- 本審査
- 口座開設
- 金消契約締結
①事前審査
物件の契約締結までに、住宅ローンの事前審査を済ませます。事前審査では、住宅ローン利用者の収入や借入状況を簡単に審査し、借入可能額などを算出します。事前審査の結果が出るまで、都市銀行などでは早くて2日程度、ネット銀行では1週間程度かかります。
なお、都市銀行などとネット銀行では、事前審査での審査基準が異なります。詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
②本審査
物件の契約後、住宅ローンの本審査が行われます。本審査にあたっては、上記の通り多くの書類を提出しなければなりません。物件の契約から引き渡しまでの時間もあるため、すぐに提出できるよう、早めに準備しておきましょう。
本審査の結果が出るまでには、2週間から1か月程度かかります。新築の物件を契約して、売主や販売会社が提携している金融機関の住宅ローン(提携ローン)を利用する場合、金融機関から本審査の結果についての連絡がない場合もあります。
③口座開設
住宅ローンを利用する金融機関の口座を持っていない場合は、本審査が完了するまでに口座開設が必要です。
④金消契約の締結
本審査に通過すると、金消契約を締結します。その際は収入印紙が必要です。金額を確認して事前に購入しておきましょう。
以上のステップを行うと、住宅ローンが実行され、物件の引き渡しを受けることができます。
金消契約は(住宅ローン)どこで行うの?
一般的に金消契約は、金融機関が指定する住宅ローンセンターで行われます。店舗を持たないネット銀行などの金融機関では、郵送やオンラインで契約が行われることもあります。
金消契約(住宅ローン)で気をつけるべきこと
金消契約は、物件引き渡しの直前に行われるのが通常です。
万が一、手続き上の不備があり、金消契約が締結できなかった場合は、予定通りに物件の引き渡しが行えなくなってしまう可能性があります。どのような書類が必要か、用意した書類で問題ないか、しっかりと確認しながら進めるようにしましょう。対面で細かく確認することができないネット銀行での場合は、より注意深く準備するようにしましょう。
おわりに:金消契約では書類の不備に注意しましょう
住宅ローンを利用してマイホームを購入する場合、金融機関と金消契約などを締結しなければなりません。金融機関へのお申込みや必要書類の準備は、基本的にご自身で行う必要があります。
しかし、申し込み内容に誤りがあったり提出書類に不備があったりすると、金消契約が締結できず、予定通りに物件の引き渡しが出来なくなってしまう可能性があります。だからこそ、マイホームの購入を検討している段階から、住宅ローンの利用に必要な金消契約までの流れや必要な書類について理解しておくようにしましょう。
ファイナンシャルプランナー横山さんコメント
住宅ローンを利用する際は、金消契約をはじめとするいくつもの契約を結ぶことになります。金消契約はお金を借りるための契約ですので、「住宅ローンの契約書」と考えてもらって差し支えありません。
慣れていないと複雑で難しいことのように感じてしまいますが、マイホームを購入するために、適切に手続きをしなければなりません。もし、書類の不備等で引き渡しができないようなことになってしまわないよう、書類の準備などで少しでも不安なことがあれば、金融機関の担当者に確認しながら、着実に準備を進めていくようにしましょう。
この記事を執筆した人
1級ファイナンシャルプランニング技能士、日本証券アナリスト協会認定アナリスト、MBA(経営学修士)
横山 研太郎
ねこのて合同会社 代表。大手メーカーで経理、中小企業の役員として勤務したのち、ファイナンシャルプランナーとして独立。金融機関での経歴がないからこそ、お客様にとってのメリットを最大化するプランを提案することができることを強みとする。保険だけ、投資だけに片寄ることなく、今の生活も将来の生活も可能性に満ちたものにするようアドバイスすることを心がける。